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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)3354号 判決 1964年6月23日

原告 星野きん

右訴訟代理人弁護士 岩城武治

被告 長崎清市

右訴訟代理人弁護士 金末多志雄

同 石原輝

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告が大正一五年一月三一日被告と婚姻したこと、当時被告と先妻ミヨとの間に生れた子供である功がおり、原告と功との間に継親子関係が成立したこと、功は昭和一九年一二月二五日戦死したこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

まず、問題となるのは、原告が右功にかかる遺族扶助料の受給資格及び受給権を取得したものと認められるかどうかということであるが、恩給法は、扶助料を受ける資格と権利を区別し、受給資格者のうち、受給の順位が最上位である者を受給権者としているので以下、初めに、原告が受給資格を取得したかどうかを考察し、次いで受給権を取得したかどうかを判断することとする。

旧軍人または旧準軍人(昭和二一年法律第三一号による改正前の恩給法第二一条に規定する軍人または準軍人をいう。以下、両者を一括して、旧軍人等という。)の遺族に対する扶助料は、昭和二〇年一一月二四日付連合国軍総司令部の覚書に基づく昭和二一年二月一日勅令第六八号「恩給法の特例に関する件」によつて、一旦停止され、その後昭和二八年法律第一五五号により、同法附則第一〇条第一項第二号に掲げる旧軍人等の遺族に対し、新たに扶助料を受ける権利または資格が付与されることとなつた。ところが、この法律は、扶助料の受給資格または受給権を認められる遺族の範囲について直接なんらの定めをしていない。

すなわち、同法律附則第一〇条第一項二号は左に掲げる者の一に該当する旧軍人等の遺族で、当該旧軍人等の死亡後恩給法に規定する扶助料を受ける権利または資格を失うべき事由に該当しなかつた者については、旧軍人等の遺族の扶助料を受ける権利または資格を取得する旨を定め、右遺族として、イ前記昭和二一年勅令第六八号施行前に扶助料を受ける権利の裁定を受けた者及びその後順位者たる遺族、ロ右イに掲げる者以外の者で、この法律施行前に公務に起因する傷病のため死亡した旧軍人等の遺族であるものと規定するにとどまり、受給資格者たるべき遺族が、具体的に誰を指すのかについては、なんらこれを定めず、わずかに同法附則第二八条において、旧軍人等の遺族に給する恩給については、この法律の附則に定める場合を除く外、恩給法の規定を適用すると定めているにすぎない。

かように、昭和二八年法律第一五五号が遺族の範囲については直接なんらの定めをせず、「恩給法の規定を適用する」旨の附則の規定をおいているに止まり、しかも右にいう「恩給法」が何時現在のものを指すかにつき特段の説明をしていないところからみると、同法律は、一見、遺族の範囲については、同法施行当時の恩給法の定めるところによらしめる趣旨であるかのように見えないでもない。

しかし、昭和二八年法律第一五五号の旧軍人等の恩給に関する規定は、前記のとおり、連合国軍最高指令官の覚書に基づいて廃止された旧軍人等の恩給を復活する趣旨において、換言すれば、右廃止がなければ、旧軍人等またはその遺族が受けることができた恩給または扶助料を部分的に回復する趣旨において立法されたものであるのみならず、同法律附則をみても、例えば第一〇条第一項第二号前文において、「恩給法に規定する扶助料を受ける権利又は資格を失うべき事由(旧軍人又は旧準軍人の父母及び祖父母については、昭和二三年一月一日以後の婚姻(氏を改めなかつた場合に限る。)を除く。)」のように規定され、ここにいう恩給法が当時施行中の恩給法のみを指すものでないことは、当時の恩給法第七六条第三号、第八〇条第一項第三号(いずれも、現行法と同文)と対比し明白であつて、右附則において、恩給法なる文字が単純に昭和二八年法律第一五五号施行当時の恩給法を指す趣旨で使用されていないことは明らかであるので、前記附則第二八条にいう「恩給法」の用語もまた、単純に同法律施行時現在における恩給法を指すものと解することは早計であるといわねばならない。そればかりでなく、恩給法上の遺族の定義について規定する同法第七二条第一項は、古くは「本法ニ於テ遺族トハ公務員又ハ之ニ準スヘキ者ノ祖父、祖母、父、母、夫、妻、子及兄弟姉妹ニシテ公務員又ハ之ニ準スヘキ者ノ死亡ノ当時之ト同一戸籍ニ在ル者ヲ謂フ」と定められていたところ、昭和二三年法律第一八五号により現行法どおり「本法ニ於テ遺族トハ公務員ノ祖父母、父母、配偶者、子及兄弟姉妹ニシテ公務員ノ死亡当時之ニ依リ生計ヲ維持シ又ハ之ト生計を共ニシタルモノヲ謂フ」と改正されたものであるが、右各定義規定のいずれをとつてみても、恩給法は改正の前後を問わず一貫して、扶助料を受くべき遺族の範囲を公務員の死亡当時におけるその公務員との一定の身分関係の存否によつて確定しようとする建前をとつており、このことは、扶助料が、本来当該公務員が死亡しなかつたとすれば、享受し得たであろう遺族の精神的、財産的利益の一部を補償する趣旨に出たものであることによりしても、当然のことといえるのであるから、一般に恩給法上の遺族の範囲は、公務員の死亡当時の恩給法その他の法令によつて決定さるべきことを法は予定しているものと解さざるを得ない。以上の諸点から考えると、昭和二八年法律第一五五号が遺族の範囲については直接なんらの定めをせず、「恩給法の規定を適用する」旨の附則の規定をおいているに過ぎないのは、遺族の範囲については受給原因発生当時における恩給法その他の法令によるべきものとする恩給法の基本的建前を当然の前提として、軍人等の遺族の範囲についても、かかる基本的建前に従つた恩給法の定めるところによらしめる趣旨、すなわち、当該旧軍人等の死亡当時の恩給法その他の法令によつて、これを決定すべきものとする趣旨と解するのが相当である。

この点につき、被告は、右附則第一〇条第一項第二号において旧軍人等の遺族につきイとロを区別した趣旨は、イは該当する遺族は、すでに権利の裁定を受けている遺族、従つて当然に旧軍人等の死亡当時の恩給法による遺族を指し、ロにいう遺族は、昭和二八年法律第一五五号施行当時の恩給法による遺族を指すことにあると主張するが、たまたま権利の裁定を受けていたかどうかによつて、遺族の範囲を異にすべき合理的理由はなく、右イとロの区別は、すでに権利の裁定を受けた者及びその後順位の遺族については、当該旧軍人等が公務上の傷病のため死亡した者であるかどうかがすでに裁定で認定され、明白であるに対し、未だ権利の裁定がなされていない場合には、この点の認定手続を経由する必要があるところから、手続上これを区別して取扱うことを相当とするために設けられたものと解すべきである。従つて、右イとロに遺族が区別されていることは、被告主張のように、旧軍人等の遺族の範囲を昭和二八年法律第一五五号施行当時の恩給法によつて定むべきことの根拠となり得るものではなく、かえつて、権利の裁定の有無によつて、遺族の範囲を異にする合理的理由がないことよりすれば、右イにおいて、すでに権利の裁定を受けた者及びその後順位の遺族について(この遺族の範囲が旧軍人等の死亡当時の恩給法によるものであることは明らかである。)、これを当然に昭和二八年法律第一五五号により付与されることとなつた旧軍人等の遺族扶助料についての遺族に該当することを明定することによつて、未だ権利の裁定を受けていない遺族についても、その範囲は、旧軍人等の死亡当時の恩給法その他の法令によるべきことを間接に示しているものといわねばならない。

従つて、原告が前記功の遺族として、扶助料を受ける資格を収得するかどうかは、功死亡当時の恩給法その他の法令によつて判断すべきところ、原告と功は継親子関係を有するにすぎないが、功死亡当時の民法によれば、原告が昭和二三年法律第一八五号による改正前の恩給法第七二条第一項にいう母に該当することは明らかであり、原告が功と同一戸籍にあつた事実は、当事者間に争いのないところであるから、原告は功死亡当時の恩給法第七二条第一項にいう遺族に該当し、功にかかる扶助料につき、これを受ける資格を取得したものと解すべきである。

そこで、次に、原告が右功にかかる扶助料を受ける権利を取得したものであるかどうかについて判断することとする。扶助料を受ける者の順位についての恩給法第七三条第一項は、従来「妻、未成年ノ子、夫、母、成年ノ子、祖父、祖母ノ順ニ依リ之ニ扶助料ヲ給ス」とあつたのが、昭和二三年法律第一八五号により、「妻、未成年ノ子、夫、父母、成年ノ子、祖父母ノ順位ニ依リ之ニ扶助料ヲ給ス」と改正され、右改正前においては、父母及び祖父母につき、それぞれ、父及び祖父が先順位で、母及び祖母が後順位であつたのが、改正により父母、祖父母はそれぞれ同順位となつたのであり、前記功に妻及び未成年の子のなかつたことは、≪証拠省略≫により明らかであるから、原告が扶助料を受ける権利を取得したかどうかは、扶助料を受ける者の順位につき、右改正後の法律が適用されるかどうかによつて決せられることとなる。

原告は、遺族の順位については、遺族の範囲の場合と異なり、昭和二八年法律第一五五号施行当時の恩給法によるべき旨主張するが、旧軍人等の恩給に関する同法附則には、かかる趣旨を明言する規定はなく、かえつて、右附則は、前記立法の経緯からも明らかなとおり、旧軍人等の恩給につき、昭和二一年勅令第六八号による廃止がなかつたと同趣旨に、すなわち文官に対する恩給と同様に、これを扱う趣旨に出たものと解すのが相当であるから、原告主張のように、遺族の範囲とその順位につき、適用すべき法律を別異に理解することはできない。

この点につき、証人大屋敷行雄の証言によれば、恩給局においては、旧軍人等の恩給が昭和二八年法律第一五五号により新たに付与せられることとなつたことに鑑み、昭和二三年法律第一八五号附則第七条第二号の「昭和二三年一月一日において現に扶助料を受ける権利を有する者がある場合において、その者が失権した後においては、第七三条……の改正規定を適用する」の規定を、旧軍人等の遺族の順位について類推適用することを条理上相当と認め、旧軍人等の遺族扶助料については、父母、祖父母を同順位として取り扱つていることが認められるので、かかる解釈の当否をさらに検討する。

昭和二三年法律第一八五号附則第七条第二号の規定が、昭和二八年法律第一五五号による旧軍人等の遺族扶助料につき、これを直ちに適用しうるものでないことは、その文言上明らかであり、しかも旧軍人等の恩給の復活が、前記のとおり廃止のなかつた文官の恩給と同様に取り扱うべきことを予定したものと解されるところ、昭和二二年一二月三一日以前において死亡した文官の父が扶助料の受給権者であつた場合には、昭和二三年法律第一八五号による改正後においても、右父のみが受給権者であつて、母は受給権者とはならないことから考えても、旧軍人等が昭和二二年一二月三一日以前に死亡しており、右改正前の恩給法によれば、父が受給権者と認められる場合について、同法附則第七条第二号を類推適用して、旧軍人等の父母を同順位と解することができるかどうかについては、疑問がないわけではないが、昭和二三年法律第一八五号による改正前において、父、祖父をそれぞれ母、祖母の上位者としていたことについては、「家」制度に由来する男尊女卑の思想による外、これを理由づけることは困難であり、かかる思想が日本国憲法により厳しく排斥されていることにかんがみれば、昭和二八年法律第一五五号により形式的には新たに付与せられることとなつた旧軍人等の恩給に関し、昭和二三年法律第一八五号附則第七条二項の規定を類推適用することが条理にそうものとして、父母、祖父母をそれぞれ同順位と解釈することを、直ちに違法と断ずるには当らないというべきである。

しかし、以上の理は、実母、養母等については妥当するにしても、継母の場合には、これと別個の考察を必要とする。継親子関係は、「家」制度に由来する擬制的な親子関係で、それ故に、昭和二二年法律第七四号日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律、昭和二二年法律第二二二号民法の一部を改正する法律によつて、「家」制度を否定した日本国憲法の施行とともにこれが廃止されたのである。従つて、日本国憲法施行前の昭和二二年五月二日以前においては、継母も恩給法第七二条第一項にいう母として、扶助料を受ける資格を取得したのであるが、同月三日以後においては、母には当たらず、扶助料を受ける資格を取得することもないのである。旧軍人等の遺族扶助料につき、昭和二三年法律第一八五号附則第七条第二号を類推適用することが、条理上相当と認められるのは、先にも述べたとおり、日本国憲法により、男女の同権が保障され、子に対する関係において父母を区別することが、憲法の趣旨に反するものであることによるのであるが、日本国憲法により父と同一の地位を保障される母は、実母または妻母に限られ、継母、嫡母等は、これを母として遇することが、「家」制度を排斥する憲法の意図にそわないものである以上、継母等につき、前記附則第七条第二号を類推適用すべき、条理上の根拠は存しないものといわねばならない。

従つて、功の継母である原告については、昭和二三年法律第一八五号附則第七条第二号を類推適用することは許されず、扶助料を受ける順位については、同法による改正前の恩給法第七三条第一項に従うべきものであり、原告は、父たる被告の後順位者として未だ扶助料を受ける権利を取得していないものと解するのが相当である。

最後に、原告は、恩給局長が原告及び被告を同順位者とする裁定をしており(この事実は、前掲証人大屋敷行雄の証言によつてこれを認めることができる。)、右裁定は公定力を有するから、この裁定が権限ある機関によつて取り消されない限り、被告は、原告の受給権を否定することはできないと主張するので、右主張の当否につき考察する。

行政処分には、いわゆる公定力があるものとされるが、公定力はもともと、行政行為にその効用を発揮させ、行政行為の目的とする公益の実現を一応可能にするために認められるものであるから、公定力の及ぶ範囲は、それぞれの行政処分の目的、性質に応じこれを認むべき合理的必要の限度に限られるものと解するのが相当である。この見地から考えてみると、恩給法第一二条が恩給を受ける権利は総理府恩給局長がこれを裁定する旨を定めているのは、恩給の受給原因の有無等の判定は、往々微妙かつ困難な認定を要するものがあるのみならず、恩給支給の関係は、長期間にわたつて継続する場合が少なくなく、しかも多数の者に対し、迅速的確にこれを支給する必要があるところから、恩給の支給に関する行政事務の処理を的確かつ能率的に行うためには、受給権者と主張するものが恩給の支給を請求するには、先ず恩給局長の裁定により受給権者であることの確認を受くべきものとするとともに、この確認を受けたものに限つて、爾後国家において恩給の受給権者として取り扱うこととする必要があるとの考慮に基づくものと思われる。従つて、裁定手続においては、恩給局長は、受給原因発生の有無を判断するとともに、裁定申請者が受給権者に当たるかどうかを一応審査するのが、受給権者と主張するものが数人ある場合に、その間で争いを裁断して唯一の真実の受給権者を確定することは、裁定処分の目的とするところでなく、このことは、裁定処分が争訟裁判手続というにふさわしい手続構造をとつていないところからみても明らかである。上述のところから考えれば、たとえ真実の受給権者であつても、恩給局長の裁定によりその確認を受けないかぎり国家に対し自己が恩給の受給権者であることを主張し得ないという意味において、裁定申請者が受給権者であるかどうかについて恩給局長に公権的認定権が与えられているものと解すべきであり、また、恩給局長が誤つて真の受給権者につきこれを否定する裁定をした場合でも、その取消しがないかぎり、真の受給権者であつても恩給の支給を請求することができなくなるという意味において、右裁定に公定力が与えられているものと解さねばならない。しかし受給権者でない者を受給権者とする裁定があつた場合は、真の受給権者がこれを否定し、自己を受給権者とする裁定を求めるに当たり、まず前の裁定の取消しを得なければならないという意味において裁定に公定力があり、真の受給権者が前の裁定の公定力によつて自己が受給権者であることを主張することを妨げられると解することは、裁定処分の性質、目的からみて合理的に必要と認められる限度をこえて、不当に公定力の及ぶ範囲を広く解するものといわざるをえない。いわんや、本件の場合のように、国家に対する関係をはなれて、同順位受給権者として裁定を受けた者相互の間で、扶助料の配分に関し、受給権者たる地位が争われる場合に、唯一の真実の受給権者と主張するものが、同順位の受給権者として裁定を受けたものの地位を否定することが右裁定の公定力によつて妨げられ、裁定の取消しを得た上でなければその主張ができないとするがごときは、公定力の及ぶ範囲を合理的必要性の認められる限度をはるかにこえて広く解する見解として、到底、当裁判所の賛同し得ないところである。

従つて、裁定の公定力を根拠とする原告の右主張は、理由がないといわねばならない。

以上の次第で、前記功にかかる遺族扶助料の受給権者は被告のみであつて、原告は、被告と同順位者として受給権者となるものではないから、被告と同順位の受給権者であることに基づく本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石健三 裁判官 浜秀和 町田顕)

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